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「僕がさー」
「はい」
「見合いなんてするわけないじゃん」
「はい?」
「いやー、さすがにないよ。確かに、おじいちゃんの家はそこそこ大地主らしいけど、でも見合い話なんてないからね。帰るの遅くなるって言ったのは、風邪やらぎっくり腰やらで何人か倒れちゃって、人手が足りないからってごねられたの。半分は孫可愛さだけど」
撫でる手を休め、真澄は考えた。見合いをした事実も、それどころか見合い話すらなかった。それはつまり――。
「鈴井さんシメてくるんで、ちょっとどいてください」
綺麗に割れた腹筋を駆使して起き上がろうとした真澄を、晴は腰に抱きついて阻止する。
「自分だってほんの少し前に変な噂流されたくせに、信じちゃうんだもん。その上、えっちらおっちらキャベツ畑まで来ちゃうとか」
「うるさいです」
「鈴井くんに聞いたら、彼女ちゃんにフラれた八つ当たりだって。でもそそのかしたのは、もだもだしてた真澄を見かねた高野くん」
「まとめてシメる」
「まあまあ。飛行機とか電車とか速攻でルート確保して、ステラのご飯のことまで考えてたくせに、そんなにテンパってたの?」
「もう黙っててくれませんかね」
「またまたー」
腹の上で晴が笑う。犬猫に懐かれた気分の真澄は、くすぐったさに身を捩った。
「真澄」
「今度はなんですか」
もうどうにでもなれ、と真澄は身体から力を抜いた。物音を立てないステラが気がかりであったが、晴の拘束を抜けたいとも思えなかった。
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