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「晴さん」
「うん」
真澄が晴にだけ家族の話をしたのは、彼のことが好きだったからだ。抱きしめてほしかった。気を引きたかった。知っていて欲しかった。受け入れて欲しかった。傍にいて欲しかった。
「晴さん」
「なあに、真澄」
自分のそういうところを含めて、好きになって欲しかった。
真澄の胸の中は晴への気持ちで溢れているのに、同じ言葉しか出てこない。どんな言葉なら、この想い全部が届くだろうか。考えても言葉は見つからなくて、同じ言葉に集約される。
晴の柔らかい髪をかきわけ、真澄は耳元で大切に大切に囁いた。
「晴さんが、好きです」
瞳のきらめきが見えるほどの距離に晴がいて、濡れたまつげが光っていた。
「うん。僕も――」
続く言葉を、真澄は唇で直接受け取った。吸いつくような晴の唇の弾力に驚いて、1度目は掠めるくらいのキスだった。離れがたくて、すぐにまた唇を合わせる。すりあわせ、食み、啄む。ふ、とどちらからともなく、笑みのような吐息が漏れた。
瞬間。
――ダァン!
真澄と晴は、抱き合ったまま頭上のステラを見上げた。
立ち上がったステラは、前脚をドアにかけて、きゅるんと丸い目で2人を見下ろしている。かと思えばバッタンバッタンと跳ね回り、鼻でご飯皿をつつき回す。
真澄と晴は目を合わせ、同時に言った。
「ご飯の時間!」
そして、堪えきれず同時に笑った。
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