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〈12羽〉
〈12羽〉
6月某日――。
「ご両親に挨拶しときたいんだけど」
晴がそう切り出したのは、真澄の家の空き部屋に段ボールを運び込んでいる時だった。
付き合いだしてから、それまでが嘘のように2人の行動は早かった。互いの家を行き来するだけじゃ足らず、晴が真澄の家に移り住むことになった。もちろん、ステラも一緒に。
真澄が暮らしている家は知人からタダ同然で借りた古い一軒家だった。曰くつきではあるが、特に問題は起こっていない。
晴は家財道具のほとんどを人に譲ってしまい、業者に頼むほど荷物はない。梅雨の晴れ間に、2人は少しずつ晴の荷物を真澄の家に運び込んでいる。
「挨拶って、墓参りということですか?」
「お墓参りもするけど、そうじゃなくて、実家にご挨拶したいなって。長いつきあいだけど、会ったことないしさ」
「必要ないですよ」
真澄と義理の両親や弟との関係は良いとはいえなかった。
大学入学を機に家を出てからは、1度も帰っていない。目立った諍いはないが、交流もない。年賀状のやりとりと、たまに留守電に入っているメッセージを聞くぐらいだ。
「必要あるとかないとかじゃなくて、会っておきたい。一緒に行くのが嫌なら、僕1人で行くから大丈夫」
「行くのは決定なんですか」
「決定なんです」
「他人の家の事情に首を突っ込むのは野暮ですよ」
晴は目を三角にして段ボールを脇に押しのけ、正座をした。
「つまり、僕とお前は他人なわけ」
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