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しまった、と真澄は舌を打つ。
晴は自分の正面をポンポンと叩いて、真澄を呼んだ。真澄は大人しく膝を突き合わせる。
「他人じゃないよ。僕と真澄は家族になる。ステラもね。もちろん、僕らは男同士だから今の社会じゃ結婚はできないけど」
「他人なのは、俺と実家です。俺とあなたは家族です。紙の契約なんかしなくても、法に守られなくても、あなたと家族になりたいと思ってます」
家族、と真澄は胸の中で噛みしめるように反芻した。響きだけで、ぽっと胸が温まる。
真澄は『家族』は自分には縁のないものだと、ずっと思っていた。義理の両親や血の繋がらない弟を嫌っているわけではない。3人の中に、自分の居場所を見出すことができなかっただけだ。
しかし今、真澄には晴とステラという家族がいる。
真澄は膝の上に置いていた手を硬く握り締めた。晴がいて、ステラがいて、家族はそれで十分だと思っている。
「……別に、カミングアウトする必要ないじゃないですか。あなたの思う展開になるとは限りませんよ」
「そうだね。別に付き合ってるって言わなくていい。僕らのことを普通に受け入れてる鈴井くん達が変わってるんだから、伏せてもいい。それに真澄と実家の関係を修復したいとかじゃない」
「じゃあ、どうして」
「真澄の家族に会ってみて、こりゃダメだってなったら、もちろん距離を置くよ。でも、なにも知らないまま、会ったこともないまま、僕は蚊帳の外でいたくない。関係ないって、僕を蚊帳の外に置かないで」
真澄の拳の上に、晴の手が重ねられた。自然と、指が絡み合う。
「……嫌な思いをするかもしれませんよ」
「うん」
「それでも会うんですか」
「うん」
やれやれハァー、と真澄は溜息をついた。陥落を悟った晴は、真澄の頬にあやすようなキスを送った。
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