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◆◇◆◇◆
翌週の土曜日――。
真澄と晴は、うさぎ庵のどら焼きを土産に実家を訪れた。
真澄が11歳のころ、継母の再婚を機に越してきたのは2階建ての新築だった。
真っ白だった壁は年月と共に汚れてはいたが、玄関前の庭にはマリーゴールドが植えられていて、しっかりと手入れされているのがわかった。門扉横の塀につけられた『宇佐木』の表札を前に、真澄はこっそり溜息をつく。
サクッと玄関で挨拶して、パッと手土産を渡して、ササーッと家に帰ろうと真澄は思っていた。
しかし――。
「いらっしゃい。待ってたのよ。さあさあ、上がってちょうだい」
継母の思わぬ歓迎により、真澄の目論見は早々に打ち砕かれた。リビングに通され、そこでは継父がソファーに座って待っていた。挨拶もそこそこに、真澄と晴は2人がけのソファーに座る。
正面に継父と継母。
和やかというよりそわそわとした雰囲気で、真澄は尻の心地が悪い。晴が土産を差し出すと、継母がぱっと顔を明るくした。
「まあ、真澄くんの好きなうさぎ庵のどら焼きね!」
その言葉に真澄は目を丸くした。当たり前のように1番好きな抹茶あんのどら焼きが目の前に置かれ、更に驚く。
真澄はなんでもよく食べる方だと自負している。しかし、具体的になにが好きか、好物を明言したことはなかった。今日の土産を選んだのは晴であったし、苗字の『宇佐木』と引っかけるのも悪くないと思い、特に口を挟まなかった。
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