〈12羽〉

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「真澄ってなんでも食べるけど、好きなものを食べる時は噛みしめてる感じがするよ。あ、でも粒あんは好きじゃないだろ」  晴にそう耳打ちされ、真澄は更に更に驚いた。以前、真澄はステラにこんなことをこぼしていた。 『彼は俺の好物なんてきっと知らないでしょうね』  けれど、そんなことはなかった。  真澄がうさぎ庵の抹茶どら焼きが好きだと、晴は知っていた。継母も知っていた。じーん、と真澄は胸に込み上げて来たものを噛みしめる。それで、つい口を滑らせた。 「……晴さんと、お付き合いをしています。男同士ですから結婚とかはできませんが、一生一緒にいるつもりなので、まあ、事実婚のようなものだと思ってください。今日はその報告に」  真澄のそっけない言葉に、血の繋がらないの両親のそわそわはピークに達した。継母は興奮で頬を赤くし、継父は眼鏡をずらして目頭を押さえて涙ぐんでいる。晴が何事か喋っているが、真澄の耳を素通りしていった。盛り上がる3名に、真澄だけが置いて行かれる。  そして、真澄は順番を間違えことに気づき、頭を抱えたくなった。真澄も晴も、互いを家族として一生一緒にいるつもりだった。しかし、真澄はまだきちんとプロポーズしていない。なのに、こうして挨拶しに来ている。 「それでそれで、いつから付き合ってるの?」 「2カ月くらい前からです。ね、真澄」  晴がはにかんで言った。きゅーんと射抜かれた真澄は、順番なんてどうでも良くなってしまった。  誕生日やクリスマスが毎年くるとわかってても嬉しいように、2年後にプロポーズされるとわかってても、それはそれで良いかもしれない――と。
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