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「そうなのね! 真澄くんは今も弁護士さんになるのが夢なのかしら?」
「え、真澄、弁護士になるの?」
「弁護士になる予定はないですが」
真澄が首を傾げると、継母は恥ずかしそうに笑みを浮かべた。だから言ったじゃないか、と継父が和やかに諭している。
「小さいころ、きみが弁護士さんになるのが夢って言ってたって聞いてね。それで、てっきり」
「……すみません。記憶にないです」
「幼稚園のころにそう言ってたそうよ。真澄くんのお父さんは弁護士だったから、その影響かもしれないわね」
「真澄のお父さん弁護士だったの!?」
「まあ……」
頷きながら、真澄は継父を見た。亡き前夫の話を持ち出されて面白くないのでは、と思ったからだ。しかし、それは杞憂だった。
「写真を見せてもらったけど、えらく男前でね。目元なんか、真澄くんによく似てる」
話に入って来た継父に、渦中にいるはずの真澄が置いて行かれる。
おかしい、おかしい、と真澄はこの家に来てから首を傾げ続けている。この家は、義理の家族は、こんな風であっただろうか。昔は家も人ももっとよそよそしくて、溜息をつくのさえ憚られた。
「うんと小さいころの絵なんかも、全部取ってあるのよ。賞状やトロフィーなんかもあってね。もちろん、写真もビデオも。晴さん、良かったら見ていかない?」
「ぜひ!」
継母が立ち上がるのに釣られるように、晴も立ち上がった。揃ってうきうきとリビングを出て行こうとする。
「晴さん!」
慌てて真澄が呼ぶと、晴は振り返ってその手を握った。目を細めて笑い、「大丈夫」と唇の動きだけで伝える。
廊下から「晴さーん?」と継母の声がして、晴はリビングを出て行ってしまった。
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