〈12羽〉

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「しかし、私や母さんに見せなかっただけで、反抗期がなかったわけじゃないんだろう。信頼できない人間を頼るはずがないと、あとになって気づいた」 「俺は、てっきり邪魔なのかと……」 「それは、私達の血が繋がってないから?」  真澄が頷くと、継父はがっくりと項垂れた。やがて顔を上げ、真澄の目をまっすぐ見据える。継父はこんな顔をしていただろうか、と真澄は微かに困惑する。 「断言しよう。きみを邪魔だと思ったことはない」 「……なぜですか?」 「母さんは、きみのお父さんを愛してたよ。愛した人の息子を愛おしく思うのはおかしなことじゃない。私にとっても、きみは母さんの愛する息子だよ。大切に決まってる」  継父の言葉に、真澄はステラを思い出した。明るい茶色のふわふわとした小さなステラ。彼女は小さな体で、懸命に寄り添おうとしてくれた。 「……晴さんは、ステラという名前のうさぎを飼ってるんです。以前、ステラさんを預かったことがありました」  真澄は動物が好きだ。しかし、うさぎが特別好きだったわけではない。 「……たかがペットと、笑うかもしれません。でも、一目見た時からステラさんが可愛くて、愛おしくてたまりませんでした。なんだって、してあげたい」 「晴さんの大切な子だから?」 「はい」 「私と母さんと、同じだね。私達にとっては、きみがそうなんだよ」  いないと思っていた家族は、ずっとずっと前から、手探りで、不器用に、懸命に、寄り添おうとしてくれていた。  気づかせてくれたのも、きっかけをくれたのも、晴とステラだった。  晴とステラは、真澄にとってかけがえのない存在だ。  2人のいる生活が日常になりつつあって、日々幸福をもたらしてくれている。がらんどうだった寂しい家は、今ではすっかり賑やかになった。  いつだって幸福のてっぺんにいるようで、けれどもっともっと上があることに何度も気づかされる。今日、今このときも。
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