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けれど、菊ちゃんはどうしたいのだろう。
私と夫の結婚生活が破綻するまで待っていられなかった事情でもあるのだろうか。
まさか、子どもができたとでも?
あの人、種がないのに?
あぁ、前の泥棒猫と同じで、夫が好きだから、結婚したいのかしら?
「私と別れたら、あなた、結婚したいの?」
「えっ、別れてくれるんですか!?」
「別れたら、の話。結婚したいの?」
菊ちゃんは顔を赤らめる。さっきまで泣いていたのに、急に表情が変わる。切り替えが早い子なのだろう。
もじもじと照れたように視線を外しながら、菊ちゃんは未来のことを考える。
「そりゃ、もちろん、愛していますから、いずれ将来的には……でも、いいんですか? 結婚しても」
「本当に愛し合っているなら、の話ね」
「わかりました、幸せにします!」
私に愛があっても、夫の愛が既に菊ちゃんに移っているのであれば、結婚生活を続ける意味はない。居心地の良い関係、がなくなるだけ。
私たちに子どもはいない。別れるのはそう難しくはない。気持ちの問題だけだ。気持ちの問題だけ。
それが一番難しいのだけど、私だって、夫の幸せを願いたい。
前回は女のほうが本気ではなかったから、あっさりと身を引いたけれど、今回は――菊ちゃんはどうだろう。
菊ちゃんは顔をパァッと輝かせている。とても嬉しそうだ。夫に「幸せにしてもらいたい」ではなく、夫を「幸せにしたい」と考える、不思議な子。
「まぁ、夫の話も聞いてみないと――」
「あ、そう、そうですよね! 別れてくれるかわかりませんものね。すみません、焦っちゃって……やだ、恥ずかしい」
急にトーンダウンした菊ちゃんの言葉に、一瞬の違和感。
……別れてくれるかわからない?
夫は菊ちゃんに「妻と離婚する」「別れる」なんて甘い言葉を投げかけたんじゃないの? それを鵜呑みにして、直談判しに来たんじゃないの?
もしかして、夫の知らないところで、菊ちゃんが盛り上がっちゃっただけ? 夫と一回だけそういう関係になった、とか?
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