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「ご主人から写真だけは見せてもらっていて、綺麗な人だなぁとは思っていたんですけど、実際お会いしたら、ほんと、お綺麗で」
菊ちゃんの目がハートマーク。少しだけ、ハートは私の頭のあたりに向いている。
グイグイ来る彼女に、私はかなり動揺している。夫への怒りなんてとっくに消えていた。怒る要素など一つもないのだから、当たり前だ。
「すぐに恋に落ちてしまいました。一目惚れです。ご主人と別れて私と結婚してください!」
「ちょっと、待って。私は夫と別れるつもりはないんだけど」
「……わかりました、愛人でもいいです!」
わかってない。
わかってないよね、あなた。
女同士で結婚はそもそも無理だし、話し相手じゃなくて愛人がいいって、つまりはそういうこと、よね? 体が欲しい、ってことよね? 体って言うよりも、私の体の一部が欲しいのよね?
「だって、絶対、私のほうが相性いいですよ!」
「そ、そうかな?」
菊ちゃんは鼻息荒く「そうですよ!」と頭上を見ながら頷く。私の笑顔は引きつっている、はずだ。
「抱きしめた感じは絶対、私のほうがいいです」
「まぁ、確かに柔らかそうね。夫の抱き心地は最悪だから」
「女同士なので、お喋りは楽しいと思います」
「じゃあ、お友達でもいいんじゃないかな?」
「ダメです。あ、私の家には井戸があるので、新鮮な水が手に入ります」
「それは確かに魅力的な物件ではあるけれど」
私は綺麗な水が好きだ。今棲んでいるところも川の水が澄んでいて気に入っている。菊ちゃんの家の地下水は気になるけれど、今棲んでいるところのほうに軍配が上がる。
「……やっぱり、無理よ」
「ご主人のほうが好きですか?」
「そうね」
「愛しているんですか!?」
「ええ、骨の髄まで」
菊ちゃんの瞳がキラキラし始める。今度は涙で。
かわいそうな子。本当に。
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