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「そんなに、好きですか?」
「ええ」
「私じゃダメですか?」
「ええ」
「愛人でも?」
「自分を大切にしなさい。愛人でもいい、なんて言うもんじゃないわよ」
菊ちゃんの瞳から大量に涙が溢れ出す。かわいい女の子を泣かせてしまった。罪悪感に胸が苦しくなる。
仕方がないので、持っていたポケットティッシュから一枚ずつ菊ちゃんに手渡していく。
「うぅっ、一枚、ありがとう、ございます。ぐすっ、好きなんです。二枚……三枚」
「ありがとう。でも、ごめんなさい」
「……う、四枚……ご主人のどこが、ぐす、好きなんですか」
どこ。
しゃくり上げながらティッシュで鼻をかんでいる菊ちゃん。数をカウントするのは、彼女の癖だろう。職業病というやつだ。
「どこ……面白いでしょ?」
「オヤジギャグばっかりじゃないですか、五枚」
「私、ああいうの、好きなの。癒されるでしょ?」
「癒やされません」
即答だ。
若い子にはオヤジギャグはつまらないものなのかもしれない。
私は、夫の底抜けに明るいギャグで、元夫の暴力に耐えていた日々から救われた。骨身を削って私に笑顔を取り戻してくれた、優しい人だ。
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