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「七枚ぃぃ」
カウントしながら泣かなくてもいいと思うの。困った子ね、本当に。
「好きなんです、愛しているんです! どうして私じゃダメなんですか!?」
だって、に続く言葉はいくつかある。
だって、女同士だから。
だって、夫を愛しているから。
だって、夫を裏切りたくないから。
だって、私たちは。
「うぅっ、はちま、い……っ」
白み始めた窓の外。
そろそろ戻る時間だ。少し寝たあと、仕事をしなければ。
「菊ちゃん、私、あなたの気持ちには応えられないけれど、話し相手にはなれると思う」
「話し相手じゃ、満足できませんっ!」
「そうね、菊ちゃんは私の体が欲しいんだもの、ね?」
「そん、そんな言い方っ!」
動揺する菊ちゃん。やっぱり図星だったようだ。でも、残念ながら、彼女の望むものは与えてあげられそうにない。
「そんな言い方は、酷いです!」
「でも、菊ちゃんが欲しいのは」
「ほ、欲しいわけではなくて! ただ、奥さんがそばにいてくれたら、すごく安心するからっ!」
涙を流す菊ちゃんに、最後の一枚を渡す。菊ちゃんはティッシュを受け取り、それが最後だと気づいて、テーブルに突っ伏した。
「なん、っで! これも、一枚足りないんですかぁぁ!!」
「菊ちゃん、落ち着いて」
「一枚っ、足りないぃぃぃ!」
一枚足りないと絶叫するのは、彼女の十八番。というか、毎日何回も叫んでいるはず。仕事とはいえ、菊ちゃんも大変だ。
ふと、窓の外、階下に白い人を見つける。どうやら、心配になって夫が迎えに来てくれたみたいだ。手をブンブンと振って壁にぶつけたせいで、いくつか白いものが落ちたのが見えた。相変わらず、そそっかしい。そんなだから、泥棒猫に目をつけられるのよ。
「ほら、そろそろ帰る時間よ。仕事よ。持ち場に戻りましょ」
「……また、会ってくれますか?」
使用済みのティッシュを山盛りにしながら、彼女は私を見上げる。目に涙を溢れさせながら。
「友達としてなら、ね」
「わかりました! 最初は友達からお願いします! いつか必ず、十枚目を、私に……っ!」
わかっているのかいないのか。諦めるのか諦めないのか。菊ちゃんの言葉ではよくわからない。けれど、まぁ、いいか。
十枚目の皿は与えられない。私には優しい夫がいる。菊ちゃんには申し訳ないけど、別れるつもりはない。それでいい。
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