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目的地のマンションに着き、エントランスに続く自動ドアをぬけた。
共同玄関に設置されたインターホンで部屋番号を入力して呼び出しボタンを押す。
「はい」と男の短い返事に対し「わたし」と一言、素っ気なく返す。
直ぐに静かな稼働音を鳴らし自動ドアが開いた。目的の部屋は4階だったが、なんとなくエレベーターを使う気にはならず階段を上った。
わたしは人差し指を玄関チャイムまで伸ばしたところでため息をひとつつき、一拍おいて呼び出しボタンを押した。
ほどなくしてドアが開かれ男が立つ。白いシャツにジーンズというラフな格好、身体は細身だが割りと鍛えている様な印象。容姿だけなら人目を引くタイプだなと思う。
「遅かったじゃないか──」と未だに私達の関係が続いているかの様な気安い態度に辟易する。
「もう、私達の縁は切れているはずよ、二度と会わない、近づかないって約束もしたはずじゃない」
「それは、君の両親と弁護士だっけ、勝手に決めたことだろ? 」
「君の両親って......そんな言い方──」
「俺にとっては、俺達を引き裂いた元凶だからな、恨みの対象でしかない、──とにかく上がれよ、飯が冷めちまう」
「約束して、これで最後って、もう二度と脅迫するような手紙や電話をやめると」
「そんなに怖い顔するなよ、俺は久しぶりに二人でゆっくり食事したいだけさ」
「最後にするって約束して」
男は少し口ごもると、はぁと息を吐き、
「──わかった、約束する。今日で最後だ」
用意されたスリッパをつっかけ、男の後を少し離れて歩いた。一人で暮らすには広すぎるマンション。フローリングの廊下を進みリビングへと入る。
部屋は間接照明とキャンドルで雰囲気が演出されていた。テーブルには真っ白で清潔そうなクロスがぴんと掛けられている。
「ねえ、こういうの要らないわよ」腰に片手を置き、精一杯冷めた態度をとる。
「ん、ああ、ムード作りも料理のひとつだよ──そこ座って」気にする素振りもなく、顎でテーブルを指す。わざとらしいため息をつき、椅子に腰を下ろす。男はそれを確認すると、キッチンへと入っていった。
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