第3章 守りたいもの

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 どうしてこんなことになったのか、思い出せない。  オフィーリアはくらくらとする頭を寝台の上で動かし、うつろな瞳でルークを見つめていた。  重ねられた唇から冷たい水が送り込まれ、無意識に喉が上下して体内へと送り込んでいく。微かに熱い吐息が鼻先を撫で、つーっと飲みきれなかった水が顎を伝った。  ――目が、回る。  そっと髪を撫でるルークの手が優しくて、何故だか胸が締め付けられる。 「リア、俺がわかる……?」  どうしてそんな悲しい顔をしているのかと、オフィーリアは長い睫毛を揺らして不思議そうにルークを仰いだ。  彼は美しい瞳を歪めて、悔しさに眉をしかめていて、返事をしないオフィーリアに奥歯を食い縛っていた。 「ルーク……?」  普通に話したつもりなのに、自分が思っていたよりも声が小さくて頼りない。  背に感じた逞しい腕に今抱き締められているのかとわかったオフィーリアは、いつものように腕を回そうとしたのに回せなくて、はて、と、小首を傾げた。  ――身体が、痺れている……?  力を入れても寝返りを打つことができず、何故なのだろうかとまた考えては靄がかかっている頭にうーんと眉を寄せる。 「無理しないで、リア。薬が抜けるまでもう少し時間がかかるから、身体を動かしてはいけないよ」 「薬、ですか……?」 「そう、薬、だよ。……ごめんね、リア。苦しかったよね」  少し空いている窓から夜風が入り込み、カーテンをそよがせた。  あまり上手く呼吸もできなくて、それに気がついたルークの手が服の中に入ってくる。 「……っ、んッ。くすぐった、いです」  背中に侵入する手が冷たくて、背筋がぞくぞくとした。どうやら感覚は正常らしい。  胸を締め付けていた晒しを取り払われると窮屈だったそこが楽になり、重量のあるものがたぷんと揺れた気がする。  それを見ていたルークがごくりと唾を呑み込むが、オフィーリアはまったく気がついていない。 「さあリア、そのまま瞼を下ろして。大きく息を吸って、吐いて……?」  言われたまま従うといくらか頭が冴えて、オフィーリアははっと思い出し華奢な身体をぶるぶると震わせた。  怖い怖い怖い。閉ざされた空間、窓もなく叫んでも部屋の中を反響するだけで誰も気づいてくれない恐怖と、自分を舐めるように見つめていたあの瞳。
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