残りの時間

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 私と同じ場所を目指す、才能しか取り柄のないような有象無象はついてくるのに、その中に彼女の姿がない。そう気づいた時にはもう手遅れだった。だって、彼女は、誰の手も届かない空の果てへ旅立ってしまっていたんだから。 『ごめんね、みぃーちゃん。私にはもう、みぃーちゃんの背中を見ることも、追いかけることもできないみたい。勝手でごめんね。でも、みぃ―ちゃんならきっと、私たちの夢を叶えてくれるって信じてる』    それが彼女の最期の言葉だった。その言葉に従って私は、独り走り続けてきたんだろう。心に空いてしまった大きな穴を塞ぐためにも、私は脇目も振らずに進み続けた。  そして今、私は己の無力感に苛まれている。どんな結果を残したところで、私という存在はいずれ消えてなくなり、私が築いてきたものは意味を失う。なら、私たちが、私が今までに築き上げてきたものは何だったのか。そこに意味はあったのか。疑問は尽きることを知らないように、次から次へと湧き起こってくる。  そうしてどれだけの時を無駄にしたのかわからない。頭を抱え耳を塞ぎ、立ち止まってしまった私に近ずく一つの影があった。影は私に向かって、そっと呟いた。 「私どもの下で、あなたのその尊い知識をご教授していただけませんか」  まさにそれは、衝撃だった。今まで悩んできたのは何だったのかというほどに、目の前には答えが用意されていた。私だけでは叶えることができないのなら、他者に引き継がれていけばいい。私は迷うこともなく、その差し出されていた手を取り、後進を育てるために大学の教授になることにした。誰かが、追いかけてきてくれるのをただ待つのではなく、私がその背を押して一緒に進んでもらう。それは奇しくも、私が彼女とこの道へと踏み出した時に通ってきた最初の道だった。 「先生、ここの記述についてなんですが……」  先生、そう呼ばれるのにも慣れた。何年も研究の片手間に学生へと私が導き出してきた結果を示すことを繰り返し、ゼミや学院生など私と同じ道を歩んでくれる後進たちも生まれた。
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