謁見

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 国王は立ち上がると、 「ま、待っておりました! 偉大なる魔の王、アスベル様! 此度は態々ご足労頂き感謝の心で一杯でございます!!」  そんな低姿勢の国王に、その場にいた全員がズッコケた。 「お、王よ! 先程と言われている事が真逆ですぞ! この儂を待たせる不届き物には罰を与えると仰られていたではないですか!」 「このド阿呆! アスベル様に何たる口の聞き方! お前など即刻首にしてやるっ!」 「そっそんな!! 私は事実をっ」 「黙れえええええ!!!」  隣に控えていた禿の首を絞める国王の顔色は、絞められている人物より青白い。  それに加えちらちらと俺に向けてくる視線が、たまらなく気持ち悪い。  周囲に仕えていた者たちは未だに唖然としており、何が何だか分かっていないよだ。  俺は逆立った肌を擦りつつ、禿を宙吊りにしている国王に口を開く。 「ほう、ヴィスタリアよ。裏でコソコソとほざいておったのだな? ん? 産まれたばかりのお前を取り上げたのは誰だと思ってるんだ?」 「しっ失礼致しましたあああ!! 本の出来意心でっ! 部下に良く見られたい一心で!! 何卒ご勘弁をっ!!」  こ、こいつ……よく見ないうちにえらく太ったなと感じていたが、その割に尋常じゃなく動きが早いぞ……。  俺の声を聞きつけた国王は、手を掛けていた禿を投げ捨て十数メトル離れた距離を一気に詰めてきた。  その勢いを殺さぬまま、華麗に膝を折り腰を曲げ、スッと重ねられた手を前に出し額を床に着ける。  これは地上界東方の島国、大和に於ける最上位の礼儀作法“土下座”といったか。  俺も昔、この着物を買いに行ったときに耳にしたことはあったが、実際に目にしたのは初めてだ。  周囲に待機していた者達はあからさまに目を反らし、アスカ達に至っては未だに王の行動に動揺を隠せずにいる。
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