船上二十日間

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 船内が騒がしくなる。  それもそうだろう。  前方に見える巨大な人工島、ネレウス。  出向から二十日と四時間程掛けてようやく辿り着いたのだ。  俺は舳先からもう一度船内へと戻り、宛がわれていた小部屋へと足を進める。  アスカを起こす為だ。  あれから三時間、アスカは一切起きてくる事は無かった。  一度部屋に顔を出したが、枕に顔を埋めうつ伏せになった状態で寝ており、窒息しかけていて大慌てでひっくり返した、という小さな事件があっただけだ。  当人は其れでも寝ていた為、知らないだろうが。 「おい、起きろ。もう到着するぞ」 「んぁ、あべるぅ~? ……はっ!」  相変わらず寝起きが酷い。涎がべっとりと頬についているぞ。  一気に覚醒したアスカはベッドから勢いよく立ち上がり、辺りを頻りに見回す。  もしや、何か夢を見ていたな?  先程俺の名前を口に出していたのにも関わらず俺に気が付かないアスカに痺れを切らし、せわしなく動き続ける顔を無理やり捕まえ俺に固定する。  急な出来事に驚嘆の声を上げられるが、それもお構いなしに汚れた顔を持っていた上質な布切れで拭ってやる。 「うっ、うぐっ。あ、アベ」 「アベとは誰だ? 取り敢えずじっとしていろ」  嫌がり声を上げるが、このまま外に出て笑い者にされるのも嫌だろう。  俺は嫌われるのを覚悟で拭き続ける。
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