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私も思わず声が出てしまった。
何故なら、其処に座っている魔王と思われる人物は、椅子に座っているというよりは“椅子で寝ている”の方が近い体勢で待ち構えていたのだ。
玉座の背凭れはその役割を充分に発揮させて貰えず、魔王の後頭部が辛うじて触れている状態であり、本来はお尻が来るはずの座面には背が乗せられている。
足はバーンッという効果音が付きそうな程投げ出されており、恐らく整っているであろう魔王の容姿は見ていられない程間抜けな表情を浮かべていた。
それに加え傾いて乗せられた頭の小さな王冠が何とも奴の滑稽さを際立たせて……。
「えぇぇぇぇ……」
先程までの緊張は何処へ。私は一気に気が抜けてしまい、その場にへたり込む。
まさか、誰がこんな魔王との対面を予想しただろうか。否、誰も思いついすらしなかっただろう。
ギールは頬をぴくぴくさせ、イルミは呆れて声も出ないようだ。
ポンさんに関しては未だ伸びているので無視でいいだろう。
そんな私達があからさまに落胆していると、魔王に動きが。
「んん……客人か……?」
何とも緊張に欠けた声を出し、ウニウニと虫の様な動きで玉座に座り直す。
それを見た私達は又もや戦闘態勢に入り、注意深く魔王の一挙一動を観察する。
「んー……ん? あ、本当に客人だったのか。失敬、無様な姿を見せてしまったな」
先程の間抜けな表情から一変し、私達を視界に入れた魔王は瞬時に真面目な顔に切り替え、身に着けた着物(こちらの世界にも日本に似た国がある)の皺を手で伸ばしながら立ち上がる。
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