プロローグ

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 魔王は息を一つ吐き出すと、何かを決意したように目を見開いた。  其処からの出来事はえらく長く感じ、又もや私の予想を覆される。  ゆっくりと向かってくる魔王の手。  それは私の頬にふわりと着地すると、親指で優しく撫でられる。    唖然とする私を置き去りに、魔王が少し、また少しと迫り――  訪れた唇への衝撃、暗くなった視界、ほのかに香る甘い香り。 「俺の名はアスベル、お前が好きだ。俺の嫁になれ」    私はその言葉の意味を理解できないでいたが、魔王のとった行動は辛うじて理解できた。  僅かに漏れる日の光に照らされた魔王城最深部、王の間。  未だに舞う砂埃が煌めく中、私は命ではなく――ファーストキスを奪われてしまったのだ。
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