プロローグ “とある手記から”

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プロローグ “とある手記から”

 剣と魔法が織りなす世界、クラウディア。そこには人間やエルフ、ドワーフといった数多の種族達が暮らしていた。  おとぎ話によくある“モンスター”や“魔王”といった存在は見られなかったが、それでもこの世界を平和と呼ぶには血が流れ過ぎていた。  この世界の人口における六割を占めた種族、人間は自分達の数を理由に強大な権利を主張。繰り返される横暴に、エルフやドワーフ、獣人といった亜人と呼ばれる者達が人間に対し宣戦布告を行った。──だがそれも、今から三百年も昔の話である。  今現在はどうかといえば、やはり平和とは口が裂けても言えはしない。  クラウディアの中でも一番巨大な面積を誇る大陸、ロジリシアン大陸を見ればそれも頷ける筈だ。  ロジリシアン大陸では現在、東西に大きく国が分けられている。  東をまとめるのは、人口の九割が人間で構成されるレインブルク帝国。人間至上主義を謳う帝国は、三百年前に起こった戦争の着火役とも言われている。しかしながらまだこの帝国が、有数の大陸の覇者として振る舞うのはその価値観に同意する人間の数が多いからに他ならない。  対して西をまとめるのは、様々な人種が集うセリフィア同盟国。六つの大きな種族で構成される代議制を採用しており、数多の種族の意見を尊重し、和平を重んずる国家群である。  西のセリフィア同盟国の成り立ちについて、少し話そう。  三百年前、亜人達によって翻された反旗は、十年前に一人の若者によって鎮静化された。人間でありながら、他種族を尊重する一人の聖人によって。  名はアレクセイ。小さな農村出身だが、肉体的、精神的にも英雄の名を授かるに相応しい資質を持っていた。アレクセイは混乱する大陸の西側の国を次々に平定。怒れる亜人達を友とし、そうして人間との調和を取り持った人物である。  千年以上封建制度により堅い地盤を築き続けてきた東のレインブルク帝国。  僅か数年で同盟が設立され、長きに渡る戦いに終止符を打ったセリフィア同盟国。  今現在、この二つの国家同士で争いが続いている。  やはりこう記すべきであろうか。  この世界は平和などではない。  そう呼ぶには、多くの血が流れ過ぎているのだ。  まさに、この世界は今。  新たな戦乱の渦中に、その身を委ねているのだ。  
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