プロローグ “とある手記から”

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 人間至上主義を謳うレインブルク帝国にとって、種族間の調和を重んじるセリフィア同盟国の存在は厄介な事この上無かった。  帝国の人口の九割は人間だが、残りの一割は亜人。帝国ではこの一割を劣等種と蔑み、人間では到底行えない激務を強いている。この労働力達に、不要な概念を取り入れる事に繋がってしまうからだった。  セリフィア同盟国設立後、レインブルク帝国はすぐさま同盟国に対し宣戦布告を行った。帝国の中には反対する声も無いわけではなかったが、それは賛成派の声に無残にも掻き消えてしまう程度だった。  同盟国盟主、英雄アレクセイは、帝国の傍若無人な振る舞いに怒りを露わにした。これ以上、人間の狼藉を許すわけにはいかない。アレクセイはかつての友、他種族の代表者たちに呼びかけ、帝国との戦争を決意。  三百年続いた亜人戦争の終わりは、形を変えただけの新たな戦乱の始まりを呼び込んだに過ぎなかったのだ。  ではそろそろ、この物語の題目を発表しよう。  “其の弾丸の行末は”。  一見、これまでの話と何の関わり合いも無いように感じるかもしれない。  だがそう断ずるのは待ってほしい。  これからここに記す物語は、英雄アレクセイを取り巻く英雄譚などでは決して無い。  レインブルク帝国、セリフィア同盟国と深く関わりを持つことは確かであるが、あの英雄でさえもこの物語においては役者の一人に過ぎないのだ。  この話は、どこにでもいる普通の男が織りなす復讐劇だ。  彼の人生は、二つの国家の対立によって大きく変動してしまう。  全てを奪われ、全てを蹂躙され、全てから蔑まれた男。  私は今から、その話をここに綴ろう。
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