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『やった…のか?』
清明がまだ現状を信じられず多摩に聞いた。
多摩は清明を地面に降ろして業の書を開いて見る。
「大丈夫。だいだらぼっちの名前が消えてる…けれど…泥田坊の文字も消え掛けてる。」
急いで二人は倒れてる泥田坊の所に走った。
「…妖弧の嬢ちゃん、それに陰陽師のボウズ。
ありがとうな。」
「泥田坊!早く業の書に触って!
このままじゃ泥田坊が滅んじゃうよ!」
多摩が業の書を泥田坊に差し出す。
調服された妖怪は業の書を通じて清明の権属となり
式神化され存在が確約される。
だが泥田坊は業の書を多摩つきに返す。
『ワシは泥田坊。
田んぼと共に生きて、田んぼと共に死ぬんじゃ。
服従する気は無い…
なに…気にするな、ワシは土に帰るだけじゃ。
森本さん…すまんが…しばらくワシの田んぼを頼むわ…
ニュータウンに隠居させれなくてすまんのぉ…』
それだけを言い残して業の書からも泥田坊の名前が消えた。
それは泥田坊がこの世から消えた事を意味する。
この泥田坊との関わりは、今後の妖怪退治における二人の在り方に影響される事となるのてあった。
昼前のバス停前、清明と多摩は帰りのバスを待っていた。
「お兄さん....」
多摩はまだ泥田坊の死を目の前にして落ち込んでいた。
煙の様な夢魔の時とは違い、泥田坊は確かに存在していた。喋り、血を流し、何より心を通わせていたのだから。
「ごめんねお兄さん。私の妖怪退治に巻き込んで。」
清明は多摩の頭をなでて優しく言った。
「気にするな、少なくとも俺はお前に感謝してるからな。」
『お~い!二人共~!』
森本さんがバスを待つ二人の所へやって来た。
『これ…弁当だ。去年田畑さんの所で取れた野菜と米だ。昼飯に食ってくれ。』
「森本さん、ありがとう。」
多摩は、その弁当を大事に抱えた。
炊きたてご飯の温かさは田んぼを守る泥田坊の意志を表す様であった。
「森本さん、何か困った事あったら私の奥多摩にある春日神社に連絡してね。必ず助けに来るからさ。」
程なくして奥羽山脈の麓から一台のバスが出発した。
この村は近いうちに工事を皮切りに町へと変わるであろう。
だが住む人の心は変わらない。
こうしてこの村にまつわる新たな陰陽師伝説が生まれたのであった。
《泥田坊と山神》完結
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