0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ふ、うう……ぅ……」
吐き気を堪える震える呼吸に混じる胃酸の匂いが気付け剤とは、何とも皮肉だ。
しかし消す方もキツイが、記憶を消される――脳を弄られるというのは、消される方もなかなかキツイらしく、男は汚らしい嗚咽を漏らして悶えている。
しっかりと抑えていないと振り落とされてしまいそうだ。
(ジッとしてろよ、手元が狂うだろ!)
だからイレーザーは意外と筋力トレーニングが必要だったりする。ケイは一見細身だが、それは体質もあるが実践で使う筋肉しか付いていないだけの事。
そして頭に触れてから3分くらい。
記憶を消され終えた男はぐったりとトイレの床に伸びている。
ここはテレビ局内。
人の出入りが多い場所だから素早い作業が求められる。
「マーク!」
ケイがそう叫ぶと、トイレの入口で待っていたマークが足早にやって来て男の頭を掴んだ。
さあ、今度は書き込みの時間だ。
男の頭に依頼主にとって都合の良い記憶が、脳に張り巡らされているシナプスの電気信号を通して新たに上書きされてゆく。
記憶を消すのに初動含めて5分近く使ってしまったから、マークが作業できる時間はケイより少ないかも知れない。
最初のコメントを投稿しよう!