帰る森はない。

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帰る森はない。

――朝は小鳥の囀りと共に目を覚まし、庭の夜露を残すハーブでお茶を一服。  今日の予定は何にしようか。おやおや? テラスから見える塀の上で翼猫が欠伸をしている。  清らかな真っ白い翼と愛らしい顔を早朝から拝めるなんて、きっと今日は何か良い事が――……。  ブロロロロ! パッパァー! キー! ゴゴゴゴゴゴ……。  懸命に現実逃避しながら筆を走らせていたものの、現実の道を行き交うけたたましい車の音や近所で行われている工事現場の音に耐え切れずその手を止めた。 (…………)  男は体をわななかせ、ペンをちゃぶ台に広げられたノートの上に置くと、勢い良く立ち上がって部屋の窓を開けると叫んだ。 「ウルサーーーーーーイ!」 「うるさいのはお前だバカエルフ!」  叫び声に呼応して何処かから怒号が返ってくる。 「けっ……どいつもこいつも環境を何だと思っているのだ。我々が数百年見守ってきた自然が、今は見るも無残ではないか」  返って来た怒号に毒付くと、男は乱暴に窓を閉めてちゃぶ台の前に置かれた紫色の座布団に座り直した。  今、男はエルフと呼ばれた。     
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