帰る森はない。

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 ピクシーの少女は急な指名に戸惑いつつも、そう言って一旦席を離れていった。  そして間も無く戻ってくる。 「それではよろしくお願いいたします」 『いつもお疲れ様だ。ここからは妖精共通言語で話をしよう。堅苦しい人間の丁寧語など、私には必要無い』 「!!」  人間にはわからない発音の言語でそう語りかけると、ピクシー少女はちょっと驚いた顔をした後、微笑む。 『……この言語をバックヤード以外で……店内で使う事になるとは思いませんでした。お気遣いありがとうございます』 『先日、お前が粗相をして人間に平身低頭している姿を見かけて、それから気になってしまってな。本来ならお前が飛び回るのはこんな石造りの街ではなく花が咲き乱れる野原や森のはず……お互い苦労するな。お前の出身はどこだ?』 『北欧の静かな湖の畔だったわ。でも今は人間の避暑地になってる……』  今は亡き故郷に思いを馳せたのか、少女の顔に影が差す。 『ああ、やはりお前の住処もか。私の住んでいた森ももう無い。ところで名前を聞いていなかったな。名は何という』 『リネアよ』 『リネアの花のピクシーか』 『ええ、まあ。私達の場合は基本的に名前が無いからここではそう名乗ってるの……ここには同じピクシーは居ないから』     
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