帰る森はない。

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 よく見ると男の耳は長く、身体の骨格も普通の人間とは少し違う。肌理の細かい肌、整った顔付きは宗教画にでも出てきそうな美しさ。  後ろで乱暴に束ねられてはいるが、長く伸びた髪などは丸で錦糸のような輝きを放っていた。  そう彼は正真正銘、幻想世界の住人であるはずのエルフである。  ちなみに年齢も数百歳を超えている。  でも彼が今いる場所は日本でよく見られる畳敷きのアパートの一室で、使っている家具もちゃぶ台や座布団、普通の電化製品etc……幻想も夢もへったくれもない場所だ。  彼が何故、こんな場所に居るのか?  それは200年程前に起こった世界的な意識改革が原因だった。  産業革命で現代化する世界で自然は急激に失われ、それらの地域に居住していた少数民族たる亜人達は住処を追われ、種の存続すら危うい状態にまで追い込まれていた。  そんな時、多数派を占める人間の方から少数民族たる亜人を保護し、人間と一緒に暮らせるようにしようではないかと騒ぎ始めたのだ。  正直亜人達からすれば、生活には困っているが、勝手に自然を破壊して住処を奪っておいて保護もないだろうと言いたかった。  と言うか、何だその上から目線は……という気分だったが、圧倒的な派閥の差や種族の存続などを考えると必然的に人間達の提案に歩み寄らざる得なかったのだ。     
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