帰る森はない。

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 エルフの知識はスレイとしてはそんな簡単に人にひけらかすものではないはずなのだが……市民権を得てしまった今となっては生きるためにそれを利用する他なかった。 (ああ、もう。どうしてこうなった!)  ほんの数百年前(人間で言う十数年くらいの感覚)までスレイと口をきこうとする人間は恭しく謙譲語で接し、供物を持ってそれなりの態度で話を聞きに来ていたのに、今は何だ。スレイが発注元に敬語で喋って仕事を貰っている。  これが時代の変化というものか、嘆かわしい!  イライラしながらキッチンに行くと、棚からカップ麺を出してお湯を沸かし始める。  これが朝食だ。  冒頭で語っていたような朝摘みのハーブティーなど、もう何年も飲んでいない。  お茶と言ったらパックの紅茶か、時々金銭的に余裕が有る時に高価な乾燥茶葉をちょっと頑張って買ってきて、自前の紅茶セットで用意するくらいだ。  日本の緑茶も良く飲む。  しかし森に住んでいた頃とは天地の差だ。  今用意してるカップ麺だって、初めて目にした時は理解ができなかったのに、今では常備食になっている。  普通に買っている現代の人間が作った野菜や果物も、最初は農薬の匂いが鼻に付いて嫌だったが、いつの間にか慣れて食べているし。  人の世に出るまで清らかな水しか口にしたことなかったのに、カルキ臭い水も飲めるようになった。     
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