帰る森はない。

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 保護するなら我々の住処を優先し、無闇に交わらない策を取る事は出来なかったものか。  街で働く妖精のほとんどが、スレイと同じく帰る森や山を失ってここに居る。  そして本来なら“同等”の権利を持つ人間から同じ扱いを受ける事なく虐げられているのだ。 (同等が聞いて呆れる。人間よりも長く生き、土地に先住していた我々を何だと思っている)  でもそれは妖精に限らず、人間同士でも起こっている問題。  後からやってきた種族が先住民族を迫害しのさばる。アメリカのインディアン、日本でもアイヌを始めとした先住民が我々と同じ憂き目に遭っているのだ。  それに加えて人で無いモノがどうして仲良く手を取り合えるというのだ。  スレイ達が人の世で暮らし始めて200年以上経つが、依然として差別意識は根強く残っている。 (それを考えれば僕はマシな方か。呼び名は変われど詩人と画家を続けてそこそこ不自由なく食べている……この街で働く妖精達も、職があるだけマシ……なのかもしれない……)  職も住処も無く、街角で震えている妖精を見かけるとそんな事を思う。世界に野良妖精は結構多い。  それにしても森が恋しい。  人と住処を交える前の、陽気に駆け回っていた自然豊かな森を思い出して目頭が熱くなる。     
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