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ボワン!とAくんの持っていたフォークが白い煙に包まれている。
熱くも冷たくもないフォークを放り出すタイミングを失って、Aくんはもくもくと広がる煙を見詰めた。
もくもく、もくもく。
リビングのフローリング一面を埋め尽くした煙からは、案の定。
「ご主人さまの願いをなんなりとお申し付けください」
大男の精霊はAくんを見下ろし、ニヤリと笑った。
筋骨隆々で腕組みする姿、その服装も確かにアラビアンではあったが、明け方のYouTubeとも世界的な有名なアニメとも違っていて、肌の色は普通に浅黒かった。
「……三つだけ?」
Aくんは本当にびっくりしていたが、あまりに唐突すぎる展開になんだか夢のようでもあったので、半信半疑のまま訊いてみた。
日本語は話せるみたいだから平気なはずだ。
精霊が豪快に笑った。
「なんと欲張りなご主人さまだ!」
「三つじゃないの?だって普通、ランプの精の願いは三つだろ?」
「私はフォークの精だが、三つの願いというのは初耳だ。昔も今も願いの数は一つ。さあ、金か名誉か、ご主人さまに女はちと早いようにお見受けするが、なに、誰に構う事もありますまい。なんでも叶えてみせましょうぞ」
じゃあ三億円、と言い掛けてAくんは口をつぐんだ。迷ったのだ。
お金が一番妥当な気がするが、Aくんはまだ小学生だ。小学生が三億円なんて大金、どこかに隠せたとしても、大人になるまでみつからないようにするなんて至難の技だ。
Aくんのお母さんは思い付きでAくんの部屋を勝手に模様替えしてしまうところがある。
お母さんにみつかったら、フォークの精からもらったお金はきっと全部取り上げられてしまう。
Aくんはそれはどうしても嫌だった。
お母さんもお父さんも自分たちだけ楽しんで、Aくんはいつもお留守番だからだ。
「……お財布、お財布がいい。いくら遣っても、いつも一万円が入ってるの」
それなら大金より小さくて隠しやすいし、Aくんがもし出掛ける時があってもこっそり持ち歩ける。誰かにみつかる心配もない。
フォークの精はおもしろそうに顎を撫でる。
「ほう、そのような財布ができようとは」
「いや、そんな都合のいい財布なんかあるわけないじゃん」
Aくんは唇を尖らせて言った。
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