願いを一つ

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「アンタが魔法で作ってよ。なんでも叶えてくれるんでしょ?」  ジロリとフォークの精を見上げる。  Aくんは三つだと思っていた願い事が本当は一つだけだと知って、少し拗ねているのだ。 「それはできませんな。私はフォークの精。魔法なんぞは畑違いも甚だしい。これまでの此の世にあったもの、あるものはいかなるものでも構いませぬ、なんでも用意致しましょう。さあご主人さまの願いは?」  何故かふんぞり返る精霊に、Aくんは困ってしまった。  とっさに思いついた、我ながらの名案はあっさりできないと言われてしまった。  Aくんはたぶん頭がいい方だ。  学校が嫌いなだけで、勉強が嫌いなわけでもない。頭のなかに知識を詰め込む作業はむしろ好きだ。  体を動かす事も苦じゃない。今は部屋に閉じ籠っているけれど、YouTubeの見よう見まねで筋トレもしている。  それらをひけらかさない要領の良さもある。  フォークの精は黙り込んでしまったAくんをきっちり三十分間見守って。 「ご主人さまの願い事ができた頃にもう一度お呼びください」  ごきげんよう、と言い放ち、フォークの精はシュルシュルとフォークに溶けていった。  Aくんはたった一つの願い事に悩みながら、中学受験に合格した事をキッカケにひきこもりを卒業した。  私立の自主性を重んじる校風はAくんに合っていたらしく、そのままエスカレーター式で大学まで進学。  無理ならフォークの精に頼もうとしながらも、持ち前の要領の良さで大学在学時に弁護士資格を取得した。  その後、自身の弁護士事務所を経営しながら政界に進出。  人気ファッションモデルであり、政財界のドンと呼ばれる男の一人娘でもある才女と結婚。一男一女の子宝にも恵まれた。  誰もが羨む順風満帆な人生を歩みながらも、Aくんはフォークを肌身離さず持ち歩き続け。  しかしAくんは九十八年の天寿を全うするまで、一度もフォークの精を呼び出す事はなかった。  無謀と思える夢にフォークの精がなんとかしてくれるだろうと挑戦していった結果の話である。 終
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