523人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
Tシャツにハーフパンツ姿の俺と同じくTシャツ、ジーンズ姿の村瀬さんはふたり仲よくリビングの床に正座していた。テーブルの向こう側のさっきまで俺が寝転んでいたソファにはふたりのニンゲンが鎮座している。
「あんたが寿明と一緒に住んどる子かいね?」
向かって右のニンゲンが俺に声をかけてきた。そのおじさん声に緊張しっぱなしの俺は、「はいっ。あの、小泉一人ですっ」と、上擦った声で自分の名前を告げた。
「まあまあ。可愛らしい男の子じゃねえ、寿明」
向かって左のおばさんニンゲンがほんわりと笑う。
「明里から聞いとったが、ほんまにこの子と一緒に住んどったんじゃのう」
若干、呆れたようなおじさんニンゲンの台詞に隣の村瀬さんが、うっ、と唸った。
目の前のおじさんとおばさんは、なんと村瀬さんの両親だと言った。ということは、その昔、路面電車の運転士をしていながら老舗旅館の一人娘に惚れ込んで入り婿になった旅館の主人と、その惚れられた一人娘の女将ということになる。
相変わらず失顔症の影響でふたりの顔ははっきりしないけれど、少し村瀬さんに似た雰囲気のあるおじさんと、ほんわかしたおばさんだな、とは、この短い間に判った気がした。
「ほんでも、まだこがぁなちっこい子だとは。一体、幾つね?」
「親父、カズトは今年から大学に行っとるんじゃ」
まあ、ほうねえ、とおばさんがにこにこと相槌を打つ。
「あの、今は十八です」
「小泉くん、寿明と一緒に住んどることは、小泉くんの親御さんも承知しとるんかのう?」
おじさんの少し警戒したような物言いの中にも、村瀬さんと同じイントネーションを発見した。
やっぱり親子なんだ。
「両親にはちゃんと承諾をもらってます。といっても両親は離婚していて父親は東京で母親は今、再婚した人と住んでいるので……」
急におばさんの方から、あらあらまあまあ大変じゃったねえ、という空気が流れてきた。
最初のコメントを投稿しよう!