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仲居頭のタキさんに言われていた電球交換を終えて、俺は裏口から外に出ると麦わら帽子をかぶって竹ほうきを手に取った。無言で本館の玄関先から、ざくざくと紅葉谷公園へと延びる遊歩道を掃除し始める。
昨日から俺の気分は沈みきっている。正確に言うと昨日の朝、薫風の間への明里さんの急襲にあってからだ。今でも思い出すと背筋がぞくりと冷たくなる。
昨日の朝、志岐さんを薫風の間に残したまま、明里さんに急かされて紅鹿館敷地内にある村瀬家の仏間へと連れてこられた俺と山内は、これまで経験したことが無いくらいにこっぴどく叱られた。
俺に対しては明里さんに嘘をついて志岐さんと出かけたこと、そして山内は未成年なのに飲酒をしていたことについてだ。
ガミガミと落ちる雷を山内とふたり、正座で体を小さくして震えながら受けていた。山内は初対面の明里さんにいきなり怒られて、訳もわからないのに「ハイッ! スミマセンっ! ゴメンナサイッ!」と平身低頭だった。
お客様のお見送り時間が迫ってきたのと、見かねた大悟さんの助け舟で明里さんの爆撃から解放されると、俺と山内は痺れる足を投げ出してその場にひっくり返った。
「ああしんど……。あんなに他人に叱られたんは中学んときの修学旅行以来じゃ」
酒を飲んだのは山内が悪いけれど、俺が巻き込んだようなものだから謝っておこう。
「ほんとにごめん。でも中学の修学旅行で何したの」
「夜、女子の部屋で遊んどったらいきなり担任が抜き打ちで部屋を回り始めたんじゃ。で、俺らは慌ててベランダ伝いに自分の部屋に戻ろうと思うてたんじゃけど、俺が足を滑らせて下の植木に堕ちて見つかった」
「えっ。それ一大事じゃん」
「ちゅうても部屋は二階じゃったし、ちょっと足捻ったくらいで大丈夫じゃったよ」
「修学旅行ってそんなことするのかよ」
修学旅行を経験したことが無い俺でも呆れた行動なのはわかる。
「ほじゃけど小泉が志岐誠也と知り合いとは知らんかったわ。びっくりしたで。あ、小泉が居るわと思うたら、連れが芸能人なんじゃもん」
山内は志岐さんのことを知っていたんだ。
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