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「すごい気さくでええ人じゃったな。俺、ダチらに自慢できるわ」 「あの人はお忍びで来てるんだから、誰彼かまわず言いふらしたりするなよ」 「わかっとるって。でもあの人、小泉のことめちゃ気に入っとったで。おまえ、マジで志岐さんの力で芸能界デビューしてみたら? ほいで雑誌のインタビューとかで『今の僕があるのは、親友の山内くんのおかげです』って言うてくれよ」  山内の妄想に大きくため息をついた。コイツは全然懲りてないみたいだ。 「山内、あんまり酒は飲むなよ。おまえ、かなり酒グセ悪いよ。それにいくら寝ぼけてたからって彼女と俺を間違えるなよな」 「は? 彼女なんかおるわけなかろうが」 「だって俺を羽交い締めにして『さくら~』って言ってたじゃん」 「さくらは俺んちの犬じゃ。ほら、これがさくら」  山内がスマホの待受画面を俺に見せてくれた。 「コーギーなんよ。かわいいじゃろ。いつも朝、俺を起こしにきてくれるんじゃ。そういや、小泉にちょっと似とるかもしれん」  似てるって言われても……。  少しムッとしていたら、仏間の襖が開いて大悟さんがお盆を持って入ってきた。 「ふたりとも、えらい絞られたのう」  今朝は休みの大悟さんがわざわざおにぎりと味噌汁を持ってきてくれる。あれだけビールと酎ハイの空き缶の山を作ったのに、二日酔いなんかしていないのか、「ありがとうございますッ!」と山内は大声で大悟さんに言うとモリモリとおにぎりを頬張り始めた。俺はというと当然食欲なんかなくて、気持ち程度に味噌汁を口にすると、はああ、とため息をついた。 「俺も小泉くんらくらいの頃はやんちゃしとったよ。けど、ほどほどにな、ふたりとも」  優しい大悟さんの慰めが温かい味噌汁の中に溶け込んでいるようだ。すみません、と大悟さんに小さく謝った俺に、「小泉、食わんのならもろうてもええ?」と山内がおにぎりに手を伸ばした。思わずピシャリとその手をぶつと、山内に取られそうになっていたおにぎりにばくんとかじりついた。
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