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「ねえねえ、見て。カズト」
先に俺の足から離れたミーちゃんがくるんとその場で一回りした。ミーちゃんの背中には大きな黄色のリボン?
「新しいのなんよ。おばあちゃんが買ってくれたんよ」
あ、ミーちゃんが着てるのは浴衣だ。白地に赤や青の大きな花柄。リボンと思ったのは帯なんだ。
足にまだしがみついているトモくんを見下ろした。俺を見上げているトモくんの顔はわからないけれど、きっと得意満面の笑顔なんだろう。
「トモくんの甚平は金魚の絵がついてるんだね。ふたりとも良く似合ってるよ。かわいいね」
ふたりの大きな笑い声が遊歩道に響いた。ほんのちょっとだけ、情けない気分が和らいだ。
「これから花火大会にいくんよ」
「え、もう? ちょっと早すぎるんじゃないの?」
「従兄弟のおねえちゃんらと夜店に行ってから、おじいちゃんとおばあちゃんと見にいくんよ」
「トモくん、リンゴあめ買うてもらうんじゃあ」
ふたりとも、いつもの三倍くらいのはしゃぎようだ。今からこのハイテンションだと花火の時間には疲れて眠くなるんじゃないかな。
「カズトも行こう。トモくん、カズトと手ぇつないで歩く」
「でもまだ仕事中なんだよね」
「もう誰もこの道通らんよ。掃除終わりーってお母さんに言うたらええじゃん」
ミーちゃん、それはずるだよ。
行こう行こうとハーモニーを奏でるふたりに「わかったから落ちついて」と言っていると、また誰かが紅鹿館のほうから遊歩道を歩いてきた。
「こぉら! あんたたち、あれほどお兄ちゃんの邪魔しちゃダメって言ったのに!」
三人でピャッと肩をすくめた。ああ、やっぱり明里さんの声はよく通って迫力がある。
「アキちゃんらが待っとるよ。お兄ちゃんはまだお仕事じゃけえ、今夜の花火大会は行かれんのよ。早よう行きんさい」
ちびっ子たちはしぶしぶその場を離れたけれど、すぐに楽しそうな笑い声が遠ざかっていった。それを見送った俺に明里さんが、
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