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「カズトくん。嘘じゃけえね。掃除が終わったら今日はもう自由にしてええから」 「はい。ありがとうございます。若女将」  明里さんが意地悪じゃないのは知ってるし。  明里さんは俺が掃除をした遊歩道を眺めている。ミーちゃんやトモくんを呼びに来たのなら、もう用事は終わったはずだ。だけど、なにか話がありそうな雰囲気で珍しくそわそわしている。 「明里さん?」  そわそわが気になって明里さんに声をかけた。明里さんはなにかを決めたように、うん、と小さく頷くと、 「カズトくん。今夜の花火大会じゃけど……。まさか、志岐さまと行く約束とかしとらんよね?」 「えっ。いやいや。約束なんかしてないですよ。今夜は山内と一緒です」 「昨日の彼ね。う~ん。いい子だとは思うんだけど、お酒はダメよ。あと煙草も」  さすがに昨日の今日で山内も同じ過ちを繰り返したりはしないと思う。だけど吸ってもいない煙草の注意も増えたってことは、信用ないよなあ。俺たち。 「志岐さまなんだけどね」  明里さんがまだ志岐さんを話題にしてドキッとした。でも俺のどっきりには気づかずに、明里さんは珍しく言いにくそうに、 「あの人、本当に俳優の志岐誠也よね……?」 「……は? それはつまりニセ者じゃないかってことですか?」  急になにを言い出すんだろう。でも、明里さんのことだから、何かしらの根拠があるはずだ。 「俺は芸能人なんてわからないから何とも言えないですけれど。なにか不審なことでもあったんですか」 「実はね。初日からなんじゃけど、宿泊代を毎日クレジットカード決済されるのよ。……でもね。どうもそのカードが志岐さまのじゃないみたいなんよ」  志岐さんのクレジットカードじゃない? 「志岐誠也って名前が芸名なら本名と違うのは当然よね。だから名義が違ってもおかしくはないからフロントも気にしてなかったみたい。じゃけど、さっき変な問い合わせがあったらしくて」  それは志岐さんが使っていたカードの持ち主というニンゲンからで、まだ志岐誠也は紅鹿館に居るのか、というものだったそうだ。
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