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うん、と返事をして通話を終えた。
やった。今夜は村瀬さんに逢いたいと願っていたことが叶った。早く夜にならないかな。
俺はうれしさで跳ねる胸を抑えて、遊歩道を早足で引き返した。
「小泉。俺はこっち。またどこ行きよんじゃ」
後ろから肩を掴まれてびっくりする。あれ? 目の前の背中は山内じゃないの?
すれ違うのも困難なほどの人混みの中、振り返るとさっきまで追いかけていた背中と同じ緑色のビブスを着けたニンゲンが立っていた。
「あ、こっちが山内か」
「今まで気にしとらんかったけど、おまえ、ほんまに他人がようわからんのじゃのう」
大きなゴミ袋を持った山内が呆れ声で言う。
「だって仕方ないじゃん。こんなにニンゲンだらけだし、おまえの着ている服、今日初めて見るやつだし」
いつもの赤いカープTシャツならわかるのに。
山内たち、花火大会にバイトで参加したニンゲンはみんな、服の上からメッシュのビブスを着けている。サッカーの練習試合なんかで着る色付きのベストみたいなやつだ。
「ほじゃが、もう俺と他のやつを間違えてついていくのも三回目で? この人の多さじゃ、はぐれたらよう見つけられんよ。なんなら手ぇ繋いで歩くか?」
「いやだよっ」
即答で否定した俺に「つれないのう」と山内はシュンとした。
でも確かに冗談じゃないほどのニンゲンの多さだ。ここはちょうど、赤い大鳥居が真正面に見える厳島神社への参道。道には多くの露店が出ていて、その前を浴衣を着た老若男女がひしめくように歩いている。みんな、少しでも良いポジションで花火を鑑賞しようと場所取りに必死だ。山内に着いてきてもう一時間くらいになるけれど、等間隔で置かれている簡易のゴミ箱はすぐに満杯になって、俺と山内は何度もゴミ一杯の袋を抱えて花火大会本部に帰っては、また回収に行くを繰り返している。
「こんなにゴミが出るんだね。でも、もう少し溜めてからでもいいんじゃない?」
「少しでもほっとくと鹿が漁るんじゃ。あいつら、口に入りゃあ何でも食っちまうからな」
確かに焼き鳥の串とか危ないものもあるな。
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