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「宮島の鹿って花火平気なの?」
「どうかのう。もう、あの音に馴れてから平気なやつはおるけど、小さいのとかは隠れとるのかあんまり見んな」
ボスなんか全然へっちゃらなんだろうな。
昨日から姿を見せないボスをちょっびり思い出す。
「小泉。あそこのゴミ箱一杯じゃ。俺はあっちを片すけえ頼む」
山内に替えのゴミ袋を渡されて、人混みを縫うように横切った。なんだか良いように使われてるよ、俺。
二つ並んでいるゴミ箱の一方を片付けていても、どんどんニンゲンが追加でゴミを捨てていく。まあ、道ばたにポイ捨てしないだけ良しとしよう。
もう片方の袋を取り替えていたときだった。
「さっきすれ違ったの、志岐誠也じゃったよね?」
急に横から志岐さんの名前が聴こえてドキンとする。声の主は浴衣を着た三人の女の人たちだ。
「あ、うちもそうかなって思ったんよ」
「やっぱり! 広島におるってうわさ、ほんまじゃったんじゃね~」
「それなら声かければよかった。もしかして、花火大会のゲストかね?」
「ええ~。志岐誠也みたいな人気者はよう呼ばんじゃろ」
ゴミ箱の前ではしゃいでいた女の人たちは、花火大会がもうすぐ始まるというアナウンスを聴いて、あわてて人波に雑ざっていった。
朝からどこに行っていたのかはわからないけれど、今は彼はこの島に居るようだ。それなら当然、紅鹿館にも戻るだろうから、夕方に聞いた明里さんの疑問もすぐに解答がでるだろう。
参道を流れていたニンゲンたちの動きが鈍くなってきた。もうすぐ八時。花火大会の始まりだ。みんな、立ち止まって大鳥居の先の海に体を向けている。宮島の花火は水中花火といって海の上の船から打ち上げられるそうだ。でも、空に上げるのにどうして水中なんて言うんだろ?
花火を鑑賞するニンゲンたちは宮島に渡ってくる人と、対岸の宮島口周辺に陣取る人がいるらしい。宮島側には特別な桟敷席も設えられていて、ミーちゃんやトモくんは村瀬さんの両親、つまりふたりのおじいちゃん、おばあちゃんとその席で毎年見ているんだと得意げに教えてくれた。
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