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「船の上からだと水中花火は本当に目の前の海面で破裂するのさ。丸い花火が綺麗に半分だけ開いて、それが水面に映るんだよ。音にも圧倒されるけれど、あの降り注ぐ光の洪水にも体が震えるくらいなんだ。来年は早めにクルーザーを手配して、ゆっくり食事をしながらカズトと海の上で鑑賞したいね」  水中花火の意味はわかったけれど、それよりも隣でビールの缶を傾けながら饒舌に話す志岐さんのはしゃぎっぷりが薄気味悪い。  まだ冷たいコーラに口をつけながら、海に足を投げ出して花火を見上げた。隣に座る志岐さんも、俺が適当に相槌を打っているのがバレたのか、急に黙ると同じように花火を見つめている。ふたりでしばらく明るい夜空を眺めていると、志岐さんがいつの間にか手にスマホを持って、 「花火をバックに写真撮ろうよ」 「スマホで撮れるんですか?」 「大丈夫。ほら、後ろ向いて」  言われるがままにお尻で回れ右をして海に背を向けた。すると、てっきり俺だけ撮ってくれるんだと思っていたら、志岐さんは体をピタリと寄せると右手を伸ばして、花火と俺たちがフレームに入るように顎をあげてスマホを調節し始めた。 「あ、あの」  頬が擦れあうかというくらいの近さにドキンとする。 「あ、いい感じだ。もう少し寄って。次の大きなやつでいくからね。ほら、スマイル」  背後から聴こえる花火の音と自分の心臓がシンクロしたみたいだ。ヤバイよ、これは。  右の肩をグッと掴まれた。完璧に左のほっぺたが志岐さんの眼鏡のフレームの感触を捉えると、微かなシャッター音が連続して聴こえた。 「いい笑顔だ。本当にカズトはピュアでかわいい」  明らかにシャッター音とは違う湿った音が左耳にだけ届く。ふにゅ、と押し当てられたのは志岐さんの唇だ。それがわかった瞬間、俺は弾けるように志岐さんから距離をとった。
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