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「も……、ほんとにからかうのはやめてくださいよ」
「からかってないって何回言えばいいのかな。ほら、見てごらん。とてもよく撮れてるよ」
キスをされたほっぺたをごしごしと擦る俺に、志岐さんはスマホの画面を向けた。おそるおそる覗き込むと、視線をうまく合わせた志岐さんの笑顔と戸惑い気味の俺の顔。そして後ろにはバッチリと大きな花火が三つも重なって撮れていた。
「こんなにうまく撮れているとは思わなかったな。カメラマンにでも転向しようか」
志岐さんは画面をタップして「これがいいかな」と言うと、しばらくスマホを操作していた。俺はまた、海に体を向きなおしたけれど、急に嫌な予感に襲われた。まさか、そんなことはしていないよね……。
「あのですね。その撮った写真はどうするんですか」
「ああこれ? もちろんインスタにあげるよ。僕、オフィシャルファンクラブのアカウント持っているから」
思わず志岐さんのスマホに手を伸ばした。けれど、その手はスカッと空を斬って「だめだよ」と志岐さんに笑われた。
「こっ、個人情報!」
「いいじゃない」
「よくないですっ。早く削除して!」
「これ以外にももうあげてるんだから、今さらだよ」
「これ以外って。だって一緒に写真撮ったの、さっきが初めてじゃ……」
志岐さんがきれいな指先で画面をスワイプする。俺は志岐さんに近づいて、画面を食い入るように見つめた。どうやらフォルダにまとめてある写真みたいだけれど、表示されるどの画像も俺の姿が写っていた。
新館の大きな窓を拭く俺。遊歩道を竹ほうきで掃除する俺。ユウコさんに捕まって立ち話をしている姿に、ボスと追いかけっこしている様子まで。
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