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「こっ、これって盗撮……」
「違うよ。資料画像。今度演じる男子高校生の雰囲気に近づこうという涙ぐましい努力と観察の結果、君を追いかけていたら結構な量になった」
あ、これはミーちゃんとトモくんの手をつないで、志岐さんにおごってもらったカフェから帰る三人の後ろ姿だ。それに、このテーブルに突っ伏してるのは一昨日の夜の古民家バーのとき。それから次のは……。
「わーわーわーっ! 何これ、どうしてっ!?」
「これはびっくりだったな。ダメもとでお願いしたのに、まさかしてくれるとはね」
その画像は顔を赤くしてトロンと眠そうな目をした俺が、志岐さんにしなだれかかって彼のほほに唇を寄せている場面だった。
「寿明にするみたいに僕にもキスが欲しいなって言ったら、『口はだめだけどほっぺにチュウなら』って」
――ほっぺにチュウ!?
驚き過ぎて声も出せない。全然覚えてないのはどうしてだろう。
「ま、まままさかですけど、この写真もインスタに……」
「うん。すごい勢いでいいねがついたよ。これは誰ですかってコメントもたくさん。評判はかなりいいよ。事務所には、いつ君がデビューするのかって気の早い連中から問い合わせもあるってさ」
ああ。一気に血の気が引いていく。あのゴミ箱前で話していた女の人たちのうわさはうわさじゃなかったんだ。だって張本人がこうして自分の居所をばらしているんだから。
「と言うわけでね。もう君がいつ東京に来てもいいようにいろいろと準備をしているんだ。社長も君との契約にオッケー出してくれたし、あとは君の気持ちしだい」
俺はひと言も広島を離れるなんて言っていないのに、志岐さんは勝手に話を進めている。ほんとにこの人、全然俺の話を聞いてくれない。
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