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 息子の帰れ攻撃にふたりは怯むこともなく、 「ほうか。そしたら今夜はおまえが小泉くんの部屋で一緒に寝え」 「はぁ?」 「ほうじゃね。お母さんらは寿明の部屋に寝させてもらうけん。あ、寿明、お茶もう一杯くれん?」  俺は村瀬さんよりも早く立ち上がると痺れ始めた足を庇ってキッチンに向かった。  背後では村瀬親子が今夜の宿に関する攻防戦を繰り広げている。でもどうやら村瀬さんのほうが分が悪そうだ。  新しいグラスに冷たいお茶を入れてリビングに戻ると、がっくりとうなだれる村瀬さんと小さなボストンバッグから寝間着を出すおじさんがいた。 「そういうことで。わしは先に風呂に入るけんな」  俺はお茶の入ったグラスをおばさんに差し出すと、動こうとしない村瀬さんの代わりにおじさんを風呂場に案内した。新しいバスタオルを取り出しておじさんに手渡すと、ありがとう、と受け取ってくれた。  風呂場からまたリビングに戻ると、ため息をつきながらも村瀬さんが俺に笑いかけてくれた。その隣にまた座ると、目の前のおばさんがいきなり、 「お父さんは知らんけどね、わたしは知っとるから」  喉が渇いたのか、村瀬さんが温くなったお茶の入ったグラスに口をつけながら「なにが?」と聞き返す。 「なにがって、あんたたちふたりが付き合いよることよね」  ぶっ、と村瀬さんが小さくお茶を噴き出した。ゴホゴホ咳き込む村瀬さんに俺は慌ててテーブルの下のティッシュをケースごと差し出す。何枚かティッシュを引き抜いて口元を拭う息子に、 「まあ、お父さんも薄々は勘づいとるかも知れんね。旅館を継がん言うた頃から、なにが理由なんじゃろうと思おとったし」  涼しい感じでおばさんはお茶を飲んだ。 「小泉くん。寿明は優しい? 小泉くんに意地悪しとらん?」  ふわんとした優しい声で聞いてきたおばさんの雰囲気が村瀬さんと全く同じで、 「はい、とても優しいです。逆に俺のほうが村瀬さんに迷惑かけてばかりで……」  自分で言いながら頬が火照ってきて思わず下を向いた。  でも、老舗旅館の元跡取り息子としては恋人が男なんて、親からしたら大問題なんじゃ……。
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