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 ――もし、このまま他のニンゲンがみんな、カオナシになってしまったら……。  村瀬さんにも会えなくなって、のっぺらぼうたちに囲まれて過ごす世界。彼らがどんなに笑っても泣いても怒っても、その雰囲気すら掴めない、俺だけ取り残された世界。  ガクガクと全身を襲う震えに堪えられない。立っているのもやっとの俺に、 「とにかく落ちついて。動くと後ろの海に落ちてしまう。……ごめん。カズトがこんなに動揺するとは思わなかった。今までのことは全て冗談なんだ。久しぶりに寿明に会ったから……」  のっぺらぼうが何かをしゃべっているけれど、もうその意味すら理解できない。  こうして俺はひとりぼっちになっていくんだ。村瀬さんを見失って、色も音も何もない世界にたったひとりで……。  震える体を抱きしめる。怖いって叫びだしたくなる。助けて。村瀬さん、助けて! 「――っ、!!」  我慢できずに大きく息を吸い込んだ。そのまま悲鳴が喉から飛び出す直前、明らかに花火の破裂音とは違う音が急に波間から聴こえてきた。  それは聞き慣れない音だった。吸い込んだ息を吐きながら音のするほうへ視線を向ける。志岐さんモドキも同じように体を向けて、無い耳と目で何かを確認しようとしていた。  耳をすませていると、ふと、その音を聞いた記憶が甦った。これは船のエンジン音だ。誰かがこの桟橋へ海から船でやって来ている。  波間に目をこらすと、花火を取り囲んで停泊している中から、一艘の船がかなりのスピードでこちらに向かっているのがわかった。でも、ここは夜間立ち入り禁止って看板が立っていた。だから船も夜は利用できないはず……。  近づく船影が花火の光に浮かび上がる。俺は、はっきりとしてきた船の形に見覚えがあった。それは何度か乗せてもらったことのある早川さんの漁船だった。船の舳先には誰かが立っている。そのニンゲンはこちらに気がついたのか大きく身を乗り出した。そして――。
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