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じわっと涙があふれた。
目尻からあふれた涙がこぼれても、もう三人の顔はさっきみたいに見えなかった。
ああ、また見えなくなっちゃった。わかっていた志岐さんの笑顔も、他のニンゲンと同じになっちゃった……。
なぜだかとても悲しくなった。今までと変わらないことなのに、ひとりだけ取り残されたみたいに心細い。
……そうだ。ついこの前までいつも心細くて孤独だった。さみしくてつらくて泣きたかった。それを無理やり我慢して強がっていた。
でも、彼に出逢って俺の世界は一変した。俺が唯一わかるヒト。俺を誰よりも理解してくれるヒト。
「カズト」
逆光のもと、四つの影法師のひとつから延びてきた手が俺のほほを撫でた。その手は後頭部に廻ると、ゆっくりと上体を起こしてくれる。ひとつまばたきをして温かな涙がこぼれ落ちたら、彼の輪郭がはっきりと捉えられた。
「よかった」
間近に見える彼の顔。その優しい瞳はいつも俺を見守ってくれた。その逞しい腕は俺がこの世界でひとりぼっちじゃないって教えてくれた。
抱きしめられた強い力に涙が止まらなくなった。俺も腕をあげて広い背中にしがみついた。
何度も村瀬さんの名前を呼んだ。俺を抱きしめる村瀬さんは、名前を呼ばれるたびに返事をするように背中を軽く叩いてくれる。そのあたたかくて心地いいリズムがゆっくりと温かく胸に拡がっていく。
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