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 どこまで入っていくんだろう。廊下の壁づたいにいくつかの扉や引き戸が見える。和室に洋室のベッドルームもあるって聞いたけれど、もっとたくさんの部屋があるみたいだ。部屋の中はどんな造りになっているのかな。気になるけれど、村瀬さんはどの扉にも触れることなく、無言で廊下を進んだ。  俺の呼びかけにまったく反応してくれない態度に、少しずつ不安が頭をもたげてくる。怒っているのはわかるけれど、どうしてこんなところに俺を連れてきたんだろう。  そのとき、ふと、俺が酔っぱらった夜の志岐さんの話を思い出した。  『紅鹿館の離れの地下には、座敷牢がある』  その昔、遊女を隠して客の男たちの相手をさせていた場所。そして、村瀬さんが志岐さんを監禁した場所。  もしかして、俺も今からそこに閉じ込められちゃうのかな……。  怖いって気持ちは湧いてこなかった。それよりも不思議と落ちついている自分がいて、ちょっと驚いた。  ――だって、それだけのことを俺はしたもんな。  心配かけて、仕事の途中で助けに来てもらって、海にまで飛び込ませて。  バイトを始めて、他のニンゲンと上手く接していけるなんて思い上がっていたから、こんなことになったんだ。何でもひとりで対応できるから大丈夫だなんて、どこかで大人になった気になって、村瀬さんの忠告を少しうるさいなんて疎ましく感じたりして。  そんな俺に村瀬さんは腹をたてているんだろう。だからもう二度と勝手ができないように、これから俺を座敷牢に閉じ込めてしまうんだ。  村瀬さんがどこかの引き戸を開けた気配がした。俺はギュッと村瀬さんにしがみついて目をつむる。すると、もうひとつカラカラと軽い音が響いて、ヒヤリとした空気が背筋を昇ってきた。
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