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ああ、地下だから夏の夜でも空気が冷たいんだな……。
俺をおぶっている村瀬さんの腕の力が緩んだ。あれだけ下ろしてもらいたかったのに、いざとなると離れたくなくて、しがみつく手に力を込めた。
「カズト。着いたけえ、下りろ」
目を閉じたまま、いやいやと顔を左右に動かす。
「濡れたままじゃいけんじゃろ。早よう服を脱いで……」
「……これから俺を、ここに閉じ込めちゃうの……?」
問いかけに村瀬さんの背中の筋肉がちょっと硬くなった気がした。
やっぱりそうなんだ……。
もしかしたら一生、閉じ込められてしまうかもしれない。日の光の差さない、暗い地下の座敷牢に。
きっと俺のことなんて誰も捜してくれないだろうな。俺がいなくなったって、ニンゲンたちの世界は何も変わらずに流れていくんだろう。最初から俺の存在なんて無かったみたいに。
でもどうしてだろう。以前はそれが堪らなく怖かったのに、今はそうでもない。むしろ、村瀬さんがここに隠したくなるほど、俺に執着してくれているってことが、とてつもなくうれしい……。
「いいよ。村瀬さんなら」
ぽつりと村瀬さんの耳元で呟いた。村瀬さんが微かに震えた気がした。
「村瀬さんとならどこでもいい。ここから二度と外に出られなくても、村瀬さんのいるところが俺だけの世界だから。だからお願い。ずっと一緒にいて」
俺は志岐さんとは違う。自らが望んで、村瀬さんに囚われるんだ。
目を閉じたまま、村瀬さんのうなじにおでこを押しあてた。
村瀬さん。俺はしあわせだよ。あなたに出逢えて、本当にしあわせだよ……。
切ない想いで胸がいっぱいになる。涙が出そうになって、すんって鼻をすすったときだった。
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