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膝から、カクッと力が抜けた。こけそうになった俺を、村瀬さんはそのまま床に座って抱きとめてくれた。
村瀬さんのプロポーズはまったくの想定外で、パニックのままに口だけが動いた。
「お、俺は他人の顔もわからないし、ひとりじゃ何もできないし、すぐに迂闊な行動とるし、ピーマンも牡蠣も食べられないから、これからもきっとたくさん村瀬さんに迷惑かけちゃうよ。大学出ても就職できないかもだし、外に出るのがいやになって引きこもって、村瀬さんのヒモになっちゃって、おじいちゃんになってもそのままかもしれないよ。それでも……、本当にいいの?」
プッ、と村瀬さんが噴きだした。
「相変わらずテンパると支離滅裂じゃな。ま、そんなところもかわいいけど」
まだ続きを言おうとした俺の口を村瀬さんは軽いキスで黙らせる。
「それにカズトが先に言ったんで。ずっと一緒にいてほしい。あなたがいればそれでいいって」
鼻先がくっつくくらいの距離で瞳を覗きこまれる。村瀬さんは本当に小さな俺のつぶやきでも、一言一句聞き漏らしてない。
「……村瀬さん。俺はうぬぼれてもいい? 村瀬さんに世界で一番愛されてるって。大事にされてるって」
「あたりまえだ。俺のほうこそ、カズトに見つけてもらえて本当にうれしいよ」
俺が見つけた……。
そうか。俺は自分で村瀬さんを見つけたんだ。モノクロの世界のなかを、ずっと探して探して――。
「返事をくれるか」
村瀬さんがまた真顔になっている。胸に競り上がってきたものに、震える下唇をキュッと結んで、俺は村瀬さんに抱きついた。
「……ずるいよ。俺が断るわけないじゃん。……好き。だから、いつまでもつかまえてて」
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