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 村瀬さんの両手が背中に廻された。直接、素肌にふれる大きな手のひらの熱がじわじわと全身に拡がっていく。村瀬さんがふう、と安心したような息をつくと、 「よかった。カズトに断られたら、この離れに泊まれんところじゃったわ」 「どうして?」 「さっき言うたじゃろ。この部屋は特別なときにしか使えんて」 「今夜のなにが特別?」  わからんか、と村瀬さんがにやりと笑った。 「俺がこの部屋を使えるのは自分の結婚式の夜からの三日間、生涯添い遂げる伴侶を決めたときだけなんだ。カズトがプロポーズを受けてくれたから、俺たちはここで過ごせるんだよ」  つまり、今夜は新婚初夜ってこと……。  ぼふっ! とほっぺたが爆発しそうなくらいに赤くなった。なんて恥ずかしいしきたりなんだよ!  そうか。だから、おばさんは俺に訊いたんだ。「小泉くんもええと思うとるんよね」って。それは俺に村瀬さんの嫁になる覚悟があるのか、ってことだったのか。  笑いながら俺のほっぺたをつつく村瀬さんに、どんな顔をしていいのかわからない。おまけにさ、プロポーズは受けちゃったけれど、二人とも濡れネズミで俺は上半身裸に剥かれた恰好だよ。こんなムードも何もないプロポーズ、女の子なら絶対にオッケーなんてしないんじゃないの?  ぐるぐると考えていたら急に鼻がムズムズして、小さなくしゃみをした。 「ああ、いかん。風邪をひかせてしまうな。今から風呂溜めるんも時間がもったいないし、このままシャワーを浴びてから寝室に行くか」
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