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 そうなんだ、とポツリと答えると、 「どうしたんじゃ」 「……やっぱり俺は村瀬さんの顔しかわかんないんだと思って。だって似ているおじさんの顔が見えなかったってことは、村瀬さん系列の顔が認識できる訳じゃないんだなあって」  村瀬さんが俺のほうに向きを変えると右腕も廻して俺の体を抱き締めた。 「それなら案外、お袋の提案は良かったかもな。客の前には出さんと言うてくれたし、実は少し安心したんだ」  俺がバイトを探し初めてから少し過保護気味だったのは、物凄く心配してくれたからなんだ。  ちょっぴり煩く思っていたのを反省しつつ、俺は村瀬さんの腕の中でとろとろと眠りに落ちた。  こんな成りゆきで俺は日本三景安芸の宮島の紅葉谷近くにある老舗旅館『紅鹿舘(こうろくかん)』にアルバイトとして行くことになった。
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