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俺の目下の不満は村瀬さんと寝室が別なこと。この四月から大学生になったのに俺が未成年のカテゴリにいるのが気になるのか、村瀬さんはお互いのプライバシーを尊重するとのお題目をぶち上げて俺の部屋をわざわざ別に準備した。
エッチだって週末にしかしてくれないし、シても俺のベッドは絶対に使わない。平日もお互いの仕事や学校ですれ違う日も多くて健全な青少年にはなかなかの禁欲生活だ。特に俺が夏休みに入ってからはバイトの比率が高くなって、その貴重な週末にさえ村瀬さんとイチャイチャする夜が減っていた。
顔を洗って、寝癖でボサボサの頭をセットする俺に、
「カズト。朝飯、どうする?」
「食べてたら間に合わないよ。ああっ! 確実に電車乗り遅れた。これじゃフェリーの時間もヤバイ!」
慌ててリビングに入ってきた俺の目に、まだ自分は充分に時間があるのに出かける支度を済ませた村瀬さんが写った。
「しょうがないけえ、宮島口まで送ってやるわ」
「ありがと! 村瀬さん大好き、愛してる!」
「わかっとるけえ、早よ準備せえ」
照れ笑いの苦笑いで、半袖の車掌の制服のシャツの上に薄手のライダースジャケットを羽織った村瀬さんが通勤に使っているバッグを持って玄関に向かう。
「俺もそのまま仕事に行くからな。忘れ物はないか?」
うん、と返事をしながら急ぎ足で村瀬さんの後を追った。
眩しさが熱を放出していそうな海岸沿いを、村瀬さんの運転するバイクは風を切って走った。俺もボストンバッグをリュックのように背負って、村瀬さんの背中にぴたりと引っつく。
朝陽をうけてキラキラと輝く瀬戸内の海は余計に真夏感を盛り上げている。
朝は爽やかなんだけど、やっぱり夕方は凪いじゃうんだよな。
瀬戸内特有の気候は暑さが苦手な俺には結構堪えた。けれど、五月の連休明けから始めたバイトのお陰で少しは体力もついて暑さにも慣れたようだ。
バイクが左に折れると直ぐに見慣れたロータリーに入る。村瀬さんは駐輪場ではなくて、フェリーの桟橋に近いところにバイクを停めてくれた。
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