519人が本棚に入れています
本棚に追加
/169ページ
ああ、つらい……。
ギラギラと輝く波間をエアコンの効いた船内から見つめながら、光の反射に目を細める。
昨夜、紅鹿館本館の大浴場で倒れた俺は、大悟さんに抱えられて助け出されるという失態を犯してしまった。
大悟さんからの連絡で母屋から来てくれた明里さんは、湯あたりでぐでぐでになっている俺に大層驚いて、扇風機やら冷たい水やらを用意してくれた。大悟さんに背負われて母屋へと連れて行かれると、
「明日の午前中の仕事はいいけんね。寿明に迎えに来るように連絡しておくから」
と、大丈夫と断る前に明里さんは村瀬さんに電話を入れてしまった。
うう、本当に情けない。そうでなくても普段から迷惑かけているのに、余計に使えない自分に腹まで立ってくる。
村瀬さんは昼前なら仕事の合間に迎えに行けると言ってくれたようで、俺はそれまで子供部屋となった村瀬さんの部屋に寝かされて、わざわざ忙がしい大悟さんに宮島のフェリーターミナルまで送ってもらったのだ。
「本当にすみません」
しきりに謝る俺に大悟さんは笑いながら、
「気にせんでええよ。小泉くんはいつも頑張ってくれとるし、嫌な顔もせずに働いてくれとるけえ、助かっとるんじゃ。貴重なうちの戦力なんじゃけ、しっかり休んで早よう復帰してくれ」
優しい大悟さんの言葉に胸が詰まってしまう。車の助手席で落ち込む俺に大悟さんは、大丈夫じゃけ、と繰り返して言ったあと、
「あのな、小泉くん。昨夜の客とのこと、まだ明里には言うとらんのんじゃ。もし、まだ何か絡まれそうなら、あの人がおる間は新館のほうの仕事に廻してもらうけれど、どうするか?」
大悟さんには志岐さんにキスされたり抱きしめられた場面を見られてはいないはずだけれど、やっぱり何かおかしいって分かったのか。
「ありがとうございます。でも大丈夫ですから。相手も有名人だし、ちょっとからかわれただけだから」
志岐さんが村瀬さんと何らかの関係があったことは臥せて、俺は大悟さんに笑いかけた。大悟さんからは、ほうか、と心配する声が聞こえる。きっと俺を見る顔も心配する表情をしていたと思う。
最初のコメントを投稿しよう!